2024
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市村:ZEALSはAI技術とコミュニケーションの力で接客体験をデジタル化する「おもてなし革命」に挑戦していますが、事業概要について聞かせていただけますか?
清水:ZEALSが提供しているチャットコマースというソリューションは、チャットボットとユーザーの会話を通じて、商品の購買に繋げるコマース領域や、さまざまなユーザーに商品を認知してもらうマーケティング領域で貢献しています。特徴的なのは、チャットコマースをLINEやInstagram、FacebookMessengerなどのソーシャルメディア上で提供していることです。
現段階では、エンタープライズ企業にフォーカスしてソリューションを提供しており、より多くのエンドユーザーにチャットコマースを使っていただきたいと考えています。その結果、ジールスにはたくさんの会話データが蓄積されますし、企業様が保有するデータとも連携しながら、より良いプロダクト開発を進めていけるからです。
市村:なぜチャットコマース事業を始めようと思ったのでしょうか。
清水:日本の将来を考えた時に、ワクワクするとか、未来に明るい夢を描いて活き活きと生きていけるような国ではなくなっていると思いました。それを変えるために「日本をぶち上げる」という志からZEALSを起業しました。社名のZEALSは、熱狂とか無我夢中という意味なのですが、これは我々が日本から世界を変えていく挑戦をしていきたいという思いを象徴するものです。
創業当初は「日本をぶち上げる」ために、何から始めるかを試行錯誤し、結果的にロボットの開発に挑戦しました。人が減っていく日本での新しい社会のあり方として、ロボットとともに共存していく社会モデルを作り、日本から世界に向けてロボットと共存する新しい社会のモデルを広げていくことができるのではないかと考えました。これなら、社会課題の解決にも結びつきますし、ロボット産業のマーケットを起こすことができたら素晴らしいと思ったのです。
ただ、残念ながらロボットの事業はうまく軌道に乗せることができませんでした。多額の資金も必要でしたし、ロボットの技術自体が未熟な部分もありました。ロボットをどう使っていくのか、マーケットとしても確立されていませんでした。できたばかりのスタートアップが、新しいマーケットを形にすることは少し難しかったかと思います。
市村:ロボット開発からチャットボットを使ったサービス開発に至った経緯を聞かせてください。
清水:ロボット開発に挑戦したからこそ、ロボットが人のように喋るようになったら、いろいろなサービスや社会、さらには人々の生活が変わるだろうと思っていました。もし、人のように会話ができて、誰かを勇気づけたり相談に乗ったり、意思決定をサポートするようなコミュニケーション技術を作ることができたら、世の中が変わるのではないかと考えたのです。
そこで、ロボットのような筐体ではなく皆さんが持っているスマートフォンを経由して、コミュニケーション技術を届けられないだろうか。何とかしてその技術を確立したいと考え始めました。
そしてそれを実現できる日がやってきたのです。2016年4月12日、当時Facebookのザッカーバーグ氏が、Facebook Messengerの上でチャットボットを提供できるよう、APIを公開したのです。これはつまり、我々がロボット開発で培ってきたコミュニケーションの技術を、世界中で約10億人が利用するFacebook Messenger上で届けることができるようになったことを意味します。「とんでもないことが起きている。」と感じて、開発をそこにフォーカスして、サービスを作り上げました。APIの公開からわずか1か月後の5月13日です。当時は、アメリカのY Combinator(ワイ コンビネーター)という著名なスタートアップのアクセラレーションで、初めてチャットボット企業が誕生したくらいの黎明期でした。そのタイミングで、スタートダッシュを切れたのは、ロボットの開発やコミュニケーションの技術に可能性を感じて、試行錯誤してきた前身があったからだと思っています。
市村:チャットボットを使ったソリューションは、どのようなものだったのでしょうか?
清水:チャットボットで会話するプログラムを、どうビジネスにするかですが、我々が注目したのはマーケティングの領域でした。自動で会話するプログラムでコミュニケーションすることで、商品を認知から購買に繋げるマーケティングの体験が変えられるのではないかと考えたのです。
そこで、お客様といっしょに実証実験(PoC)を行ったところ、ECでのショッピング体験よりも、チャットボットとのコミュニケーションを通じた接客によって商品を買う体験の方が、結果的に購入率が高いことがわかりました。
楽天やAmazonといった著名な企業ですら提供していなかった新しいコマース体験を、我々はチャットコマースと呼んでいますが、ここに勝機があるのではないかと考えました。
市村:それまでのEコマース(以下EC)は説明がひたすら長く、それを認識させて、共感を得て購買に結びつけることが多かったと思います。そこに接客をすることが重要だと考えたきっかけは何かあったのでしょうか。
清水:ECサイトでは、「いまなら10%オフ」などの表示が最初に出てきて、商品の説明が始まります。どんな悩みを抱えた人向けの商品なのか知りたいと思っている人が、サイトの隅から隅まで見た結果、ようやく最後の方で必要な情報にたどり着くような状態があります。つまり、一般的なECはパーソナライズされていないといえます。
「何を知り合いか」「どんな悩みがあるか」聞いてもらった上で提案を受ける方が、良い体験のはずです。チャットコマースは、それを可能にします。化粧品の場合、どんな肌悩みがあって、どんな肌タイプで、普段どんな製品を使っているか聞いた上で、「この商品はどうか」と提案を受ける方が、納得感があります。ECサイトが提案ファーストなのに対して、チャットコマースはヒアリングファーストです。普通のECサイトよりも高いパフォーマンスが出せたのは、ヒアリングファーストでパーソナライズされた体験が有益であることが実証できた証拠だと感じています。

市村:2022年春に大型の資金調達をした経緯やその背景、効果について聞かせていただけますか?
清水:前提として2021年12月にIPOを予定していました。IPOの目的は世界に挑戦するための資金調達でした。全ての株主さんに、我々は海外にサービスを展開していきたい、そしてAIへの投資を強化していきたい、そのためにIPOを行いたいと説明してきました。
しかし、アメリカの利上げをはじめとするさまざまな変化がコンビネーションして、結果的にマーケット環境が大きく変わりました。マザーズが暴落し、我々が想定していた資金調達をそのままできる状態ではなくなってしまったのです。無理やりIPOをしたとしても、投資をしてくれた方々にZEALSのグローバル展開を継続的に応援していただけるような状況ではないと判断し、結果的にIPOを見送り、一気にスタンスを変えて資金調達に舵を切りました。
と言いつつ、マーケットが壊れた状態で、ZEALSのみならずスタートアップに投資するということ自体が「このタイミングでの投資ですか?」という雰囲気が満ち満ちていました。そうした中で、紹介を受けて出会ったのが市村さんでありJIC VGIの皆さんでした。我々の思いと事業の可能性に向き合って、価値のある事業をやっていると評価していただいたことに感謝しています。わずか2か月後に投資を決定いただけたのは大きかったです。
同時期にZ Venture Capitalの投資も決まりましたし、皆さんの投資がなければ、アメリカ市場への挑戦も、AIへの投資もできなかったと思います。
市村:なかなかのスピードでしたよね。
清水:驚くほどの早さで意思決定してくださったことに感謝しています。資金調達を模索している会社が多くある環境だったこともあり、どうやってこんな状況の中で投資を受けることができたのかという質問もいただきましたし、我々の資金調達は日本のスタートアップシーンを明るくしたと思います。
市村:SNSで清水さんが「おめでとう」と声をかけられているのを見かけましたし、「政府系ファンド、たまにはいいことするね」というメッセージもあり、ZEALSに投資できてよかったと思いました。
市村:ZEALSがなぜここまで成長できているのか、その強みはどこにあるのでしょうか。
清水:ZEALSの強みは3つあります。
まずは販売戦略です。電通、博報堂、そしてサイバーエージェントといったマーケティング業界のトップティアの各社様、そして30社を超えるパートナー様がZEALSの販売を担ってくださる体制は、一朝一夕で作れる販売網ではありません。さらに、大手企業様にフォーカスしてビジネスを展開しています。こうした販売チャネルを作るために、一つひとつ積み上げてきてこの体制を作り上げてきました。
2つ目の強みは、コミュニケーションデザインです。
チャットボットが行う会話の体験をどう改善したら、より商品が売れるのか。こうした課題に徹底的に向き合って、さまざまな試行錯誤やデータの積み重ねによって、商品がより多く販売できる会話のデザインを行っていくことがコミュニケーションデザインで、これを担うのがコミュニケーションデザイナーです。ZEALSでは2016年くらいからコミュニケーションデザイナーのチームを作ってきています。元々、コミュニケーションデザイナーという職業はなく、採用するにもそのような人材はいませんでした。だからこそ、チャットで行うコミュニケーションがどんな体験であれば商品が売れるのかを分析し、データ化し、専門性の高い人材を育成してきました。チームはいまでは約100名規模にまで膨らんでいます。大手企業様にとっては、こうした専門性の高いメンバーがしっかりと伴走する体制が重要で、プロダクトに加えて高いサポート力があることは強みとなっています。
3つ目が、データとAIプロダクトです。
チャットコマースにおける、どんな会話をして商品購入に至ったかというユーザーのインサイトデータは、これまで世の中にはなかったわけですが、我々はこのデータを蓄積してきました。
データをもとにして、コマースの体験を提供するプロダクトやインフラも磨き上げてきました。大手企業様に使っていただいているソリューションなので、高いセキュリティレベルはもとより表面的には見えづらいとはいえ強靱なインフラを提供することは重要です。ZEALSは日本トップクラスのセキュリティレベルにも応えてきましたし、何万人、何十万人のユーザーがチャットコマースにアクセスしても、安定して対応できるインフラを構築しています。
最近は同業他社も増えてきていますが、チャットコマースを提供していく上での基本的な機能で他社にあってZEALSにないものはありません。
その上で、我々がずっと積み上げてきた、どうすれば商品を買っていただけるかという会話のデータ(ゼロパーティーデータ)と、それをもとにしたAIが実装されるフェーズになったことで、新たな強みも作っていけていると考えています。
市村:これまでの成長の過程では、苦労したこともあったかと思います。どのような苦労があったのか、あるいは現在どのようなことに苦労なさっているのか聞かせていただけますか?
清水:これまでも現在も、多国籍のマネジメントに苦労しています。言語が違うだけでも大変なのですが、評価制度ひとつをとっても、それぞれの文化によって捉え方に特徴があります。だから、ZEALSは今後こういう方向性に向かうと説明して日本人のチームメンバーがワクワクしたとしても、外国人のメンバーにそれを通訳して伝えた時に、同じようにワクワクするかというとそうではない。同じメッセージを投げかけるだけでは、モチベーションが上がらないということが起こるので、特に開発組織のメンバー、ZEALSが一体何をしようとしているのかを違うアプローチで伝えています。
例えば、経営会議は英語で実施しています。外国人メンバーにとっては、会議が日本語で行われている限り、参加権がないと受け止められるため英語ベースの会議が必要だと判断しました。
資料を日本語と英語で作ることはもとより、同じことを伝えるにも伝え方を変える必要があるなど、グローバルなチーム作りのためには、コミュニケーションコストを払わないといけないのです。英語でのコミュニケーションを増やすことは、時間もかかりますし苦労もします。
市村:その苦労を重ねているからこそ、AmazonやGoogleでも活躍できる人材がZEALSを選んできてくれるのですね。
清水:プロダクトやテックの観点でも、ZEALSがとてもユニークな会社に見えているようです。なぜなら、ソーシャルチャットコマースというコミュニケーションを軸にしたコマース体験は、アジアが先行しているからです。WeChatやLINEで、ソーシャルコマースという言葉が生まれていますが、要はSNS上でコミュニケーションを活用しながらコマースやマーケティングの体験を届けること自体が、アジアから発祥したもので、アメリカではとてもユニークな状況にあります。この背景には、MetaのAPI公開が遅れたという事情も影響していると思います。
ソーシャルコマースがアジアで成長していることから、Metaのチームが「何が起こっているんだ」と勉強に来るくらいなのです。特にアメリカやヨーロッパ系の方々にはソーシャルチャットコマース自体がユニークで面白い。しかもLLM*がレバレッジする領域であるため、LLM、ジェネレーティブAIに関わる仕事がしたいと思っている人には魅力的で、かつプロダクトがユニークだから、彼らにとってはすごく面白いのです。
その上で、日本の文化的なアセットが後押しして、より大きなテック企業で働けるチャンスがある人達もZEALSを選んでくれています。
さらにアジア系の人達にとっては、ソーシャルコマースが身近になってきています。自分もその分野の製品を作りたい、AIにも取り組みたい、かつ日本に住みたいと思った時に、日本のテック企業でグローバルな開発体制があって、作っているものがAIに絡んでいて世界にも挑戦できる会社といったら、数が限られてくるので、かなり魅力的なオプションになっていると思います。
*LLM:LargeLanguage Models。巨大なデータセットとディープラーニング技術を用いた言語モデル。チャットボットや検索エンジンなどに利用されている。
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