2025
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01
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ニコやかに、そう語るのは、3Dプリンタで義足の製造販売をてがけるインスタリム株式会社の徳島CEO。
DE&I推進には欠かせない多様性の中にビジネスのヒントがあった。その秘密とは。そしてJICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社(以下、「JIC VGI」)との出会いとは。
徳島代表取締役CEO(以下「徳島」):
当社は、グローバルサウスの国々向けに、義足を安価で製造、販売し、世界で初めて、3Dプリンタで義足を社会実装した日本発のスタートアップ企業です。
従来の義足と同程度の品質を保ちながら、価格を1/10に下げ、義肢装具士の生産性を10倍に上げるデジタルソリューションを提供しています。主にフィリピン、インドで事業を展開し、既に4,000本以上の提供実績があります。
徳島:
元来義足は、高度な技術とコストがかかります。(約50万円/本)
また、一番大変なところは、ユーザーの脚の切断部分と義足の装着部分が合うかというところです。切断部分の形状やそのユーザーの体重等によって、装着時の感じ方や機能性がそれぞれ違ってきます。
このような様々な要素に配慮された品質の良い義足のコストは、グローバルサウスの人々の収入では賄いきれないのが現状です。
徳島:
起業前に海外青年協力隊として、2013年頃からフィリピンの地方で、デジタルものづくりラボを立ち上げる事業に取り組んでいました。
フィリピンでは糖尿病の悪化により足が壊疽、切断する人が沢山います。社会復帰を断念する人も多い。そこで高品質の義足を作成してほしいと要望がありました。「それでは、作ってみよう」と、試作品を作ったところ、大いに喜ばれたのです。その時、「コレだ!」と思い起業を決心しました。
徳島:
いえ、全くなかったのではなく、例えば寄付団体などで支給されている義足が少量あります。ただ、このような義足は、例えば、水道管パイプの素材を使って作られており(写真参照)、足を切断された方の切断面と精密にフィッティングできず、生活に必要な機能性が得られなかったり、ひどい時には無理に使って痛くなってしまったり、長時間の使用に耐えないことなどから、結局使われなくなってしまいます。
そこで当社は、デジタル3Dスキャナーによって、足の切断部分を3Dデータ化し、3Dモデリングソフトウェアで脚との接合部分(ソケットと呼びます)を設計して3Dプリンタで出力することで、ユーザーの脚にぴったりフィットする義足を作りました。さらにこのデジタルによる義足の製作時に蓄積される3Dデータを用いて学習したAIを活用し、3Dモデリングソフトをアップデートし続けることで、開発途上国のビギナーであっても短期間で設計技術が習得できるほど、設計操作を容易にするということを実現しています。現地の方々によって大量生産できるようになったことで、コストを下げても高品質な製品を提供できるようになりました。
徳島:
当社がグローバルスタンダードを目指すうえで、スケールさせるためにもJIC VGIからの出資を希望しました。
JIC VGI担当キャピタリスト 和佐田(以下「和佐田」):
お話をいただいた当初、“義肢装具という福祉用具”、“3Dプリンタ”、“保険制度の整っていないグローバルサウス”を対象に、ビジネスをスケールさせるのは厳しいと思いましたが、徳島さんからお話を伺う中で、インスタリムの商品、技術、サービスが、常識を覆すと評価し、日本のものづくりスタートアップが諸外国に感謝・歓迎される先進事例となると見込んで投資に至りました。投資検討時は、フィリピンで最大の義足プロバイダーとなり、さらにインドへの事業展開を考えているタイミングでした。
徳島:
JIC VGIから、資金面だけでなく事業計画の相談、人材採用や広範なネットワークから大企業や金融機関等の紹介などの支援を受けています。また、当社は公共性の高い事業のため、ガバメントリレーションに関するアドバイスや国連機関の紹介等も受けています。
徳島:
当社は、開発拠点である日本に約30人、フィリピンに約70人、インドに約100人と総勢で約200人の体制です。女性の社員も多数在籍しており、各国に女性幹部もいます。
また、当社は障がい者雇用にも積極的取り組んでおり、下肢欠損者等も貴重な戦力として働いています。義足の新製品を開発する際などには、試作品を最初にフィッティングしフィードバックするという重要な役割を担ってもらっています。
徳島:
はい、当事者の方は、事故に遭ったり、病気を患うまでは普通に仕事をしていたわけです。義足を得たことで、社会復帰が可能な状態となりますので、且つ優秀な方であれば、採用しない手はありません。
和佐田:
フィリピンのあるユーザーからは、「義足を得たことで、本人は社会復帰でき、これまで周りで支えていた家族も本人のサポートを離れて、外に働きに行ける」、即ち世帯単位で見た際の経済的な余裕も生まれるという話を伺いました。
徳島:
よく社内で話をするのは、お客様はパートナーということ。当事者の方は義足を通じて、自分の人生を取り返すチャレンジャーであり、我々は同じ義足を使って事業を作るチャレンジャーだということ。フェアな目線を確保しつつお客様からのフィードバックは常に大切にしていきたいと考えています。